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一本の漆の木がある。一枚の貝があり、一握りの貝殻がある。何の変哲もないこれらの自然の素材。そこに職人の手が伸び働く。そして若狭の美が宿り、物が生まれる。(若狭塗師 古井正弘氏)

STORY 再び拓かれる若狭の美しさ

若狭塗を起源とした塗箸の一大産地、福井県小浜市。箸メーカー「マツ勘」は創業百余年を迎えた。箸を生業とした長い歩みの中で繰り返される「未来への技術の伝承」という自問。気づけば若狭塗の職人は数名を残すのみとなっていた。

若狭塗の魅力は何といってもその模様の美しさにある。マツ勘に代々保管されている模様帳には、実に200を超える伝統模様が記されていたが、現在流通している柄は産地を見渡してもわずか数種類。多くの模様は、技術として継承されることはおろか、存在を知られることも叶わず、産地の記憶から消えていこうとしていた。

「長く日の目を見ることのなかった技法を、 もう一度現代に生まれ変わらせることができたら」

それはまだ見ぬ美しさという一面だけでなく、新しい価値観や感性を生み、これから先、若狭塗を次世代に繋ぐきっかけになるのではないか。そう考え、再び模様帳が開かれ、ものづくりが始まることとなった。

今回、目をつけたのは「抜き模様」と呼ばれる伝統模様。漆の上に置いた松葉、生糸、菜種などの素材の形を、細かな卵殻で表現する希少な技法だ。いつの時代も暮らしの傍に存在する自然界の素朴な美しさに、伝統を継承する人の手が加わることで唯一無二の美が宿る。それは若狭塗箸が元来持つ、美意識そのものだった。

過去を見つめ直し、現代に繋ぐことで再び拓かれる未来。創業百余年を経た今、若狭塗箸のこれからを担うプロダクトが、ひとつ生まれた。

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新しくデビューした「rankak(ランカク)」。細く小さな一膳の箸からは想像できない、膨大な時間と手間を必要とする。自然物である漆との9ヶ月に渡る付き合いを解剖してみる。

PROCESS 出来上がりまで、9ヶ月。

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今は希少となってしまった若狭塗の伝統的な技法のひとつである「抜き模様」を用いて、漆の上に置いた松葉や菜種、生糸などの形を細かな卵殻で型取りし、何層にも塗り重ねた漆を丁寧に研ぎ出すことで、美しい模様として浮かび上がらせた。

若狭塗の伝統的な魅力を持ちながらも、ドットやストライプなどを思わせるデザインは、現代のさまざまな食卓にも自然に馴染み、暮らしに寄り添う。

PRODUCT 卵殻によって浮き上がる模様と螺鈿の美しい煌めき

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「何しろ、本当に今まで作ったことがなかったから。昔の技法に初めてチャレンジできることは嬉しく思いました」

そう話したのは、今回のものづくりを担当してくださった職人・古川勝彦氏。メーカーから「こういうものを一緒に作りたい」と、持ち込みの仕様書と共に新たな商品開発の相談を受けたのも、書物でしか見たことのなかった模様に挑戦するのも、長い職人経験の中で初めてのことだったという。

「やったことがないことも、実際やってみて本当にできた時、それは『できること』に変わるんだと感じました」古川氏はそう言葉を続けた。試作だけで約一年、膝を突き合わせて挑んだものづくりは、産地の未来にとって大切な変化を生んでいた。

『共創』という言葉がある。それは、単なる損得だけで繋がる関係ではなく、大きな共通の目的を見据えることで、価値観や業種、立場も異なる存在が、お互いに歩み寄り対話し、共に新たな価値を創造していくことだ。
小浜という産地、ものを作る人、伝えていく人、使う人。全てを未来に繋げる架け橋として、マツ勘の挑戦はこれからも続いていく。

FUTURE 共創していく未来